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NARUSE YOHEI
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Kraken,5.13(+?ノーマル?)初登

4/29/2021

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4月26日、笠置山で取り組んでいたルートを登ることができた。
このルートには少し思い入れがあるので、詳細をここに書いておこうと思う。

この岩を見つけたのは2年前の冬。翌年(2020年)春に公開予定のエリア(のちに「カモシカエリア」と名付けられる)を、岩を探しながら彷徨っているときだった。高さは10〜15mほどで、一番目に付く薄かぶりのフェイスは下部が大きくえぐれ、上部が三角形に尖った塔のような形が特徴的だった。地上から4mほどのところにブロック状の岩があり、その先に細いクラックのような筋が幾何学模様のように走っていた。
後日、クライマーのA君とエリア内を散策した。彼はその岩を見上げてこう言った。
「これは、じっくり育ててください」
その岩の後ろにはもう一つ大きめの岩があり、すっぱりと割れた前傾フィストクラックを「パルム(5.10a)」とした。他にもトラッドルート、ボルトミックス、ボルトルートなど数本のルートを作り、件の薄かぶりのフェイスにも終了点を打ってラインを探ってみた。なんならカムで登れるかもしれないと思ったものの、懸垂してみるとクラックと思っていた筋は岩が剥がれた跡で、ただの浅い溝だった。少し触ってみたもののムーブが組みたたず、ひとまずエリア公開に向けてボルダー開拓を優先させることにした。
本格的にトライを始めたのは昨年の冬。カモシカエリアの開拓が一段落してからだった。
難解な岩のパズルを読み解き、全くできなかったパートに少しずつムーブを当てはめていく。ライン、ボルトの位置、クリップ体勢、ムーブ。全てがとても複雑だった。それでも、何度も通ううちに少しずつムーブが組み立てられ、2月下旬にワンテンにまで漕ぎ着けた。
このルートはとても複雑かつデリケートだった。核心となる溝は、エッジになっている向きに使ったのではムーブが繋がらず、理不尽にも外傾した部分を使わなければならなかった。笠置山の岩はガビガビしてフリクションが良いところが多いが、核心ホールドのほとんどが岩が剥がれてツルツルした部分ばかり。岩のコンデイションが大きく影響を与え、少しでも気温や湿度が高くなると途端に持てなくなってしまうのだった。
恵那市の最高気温が13度、かつ乾燥しているとき。それが最適なコンディションだと思った。けれどもベストシーズンに思うように登りにいけず、3月になると暖かい日が続いた。秋になり、数回トライに行ったものの、核心ムーブすらできなくなっていた。
このルートでは、パートナーを探すことも核心だった。周辺には短めのボルトルートと易しいトラッドルートがあるだけで、付き合ってくれる人はそうそういなかった。また、右下の岩がとても近く、核心で落ちると岩に激突しそうなのが怖かった。逆にガッツンビレイだとブロックに足を強打する。墜落距離を最小限にしつつソフトビレイにするという、ビレイの基本を忠実に守ってくれなければ怪我する可能性が高かった。実際、4本目のクリップホールドを持った状態でフォールすれば、ビレイヤーいかんに関わらず岩と激突するだろう。大きく振られない核心ムーブを少しずつ探った。適切なビレイなら岩とのクリアランスは1m弱。ビレイヤーを信じて不確実なデッドポイントをするメンタルも必要だったが、実際に落ちてみて大丈夫だと思えたのは大きな進展だった。付近のルートを登ってしまった妻には近くに良いボルダーがあるよと付き合ってもらった。講習生だった地元在住のNくんにビレイを特訓、目標ルートもでき一緒に通えるようになったのは非常にありがたかった。
雪解けを待って、2月下旬からトライを再開した。核心ムーブもできなくなっていた。妻もNくんも週末休みだったのだが、展覧会と重なったり週末になると雨ばかりでなかなか登りに行けない日が続いた。ムーブを洗い直し、なんとかワンテンにまで持ち込んだものの、3月のベストシーズンは終わってしまった。フィンガーボードとボルダーでのトレーニングを積極的に行い、体のコンディションを万全に整えて臨んだものの、4月になると気温が高くなり数日前に降った雨の湿度で話にならなかった。平日は素晴らしいコンディションなのに・・・仕事をしながら悶々とする日が続いた。このルートは一生登れないかもしれない。時々そう思わずにはいられなかった。4月10日、11日と連登したが、2日目に最高到達点をマークしたのは大きな収穫だった。不思議と、疲れていてもなんとか勝負ができるように思えた。しかし翌週は雨。
市内の最高気温13度の日がベストだと思っていた。確かに核心の左手には良いものの、この気温だと右手ポケットの中の空気が冷たく、指を入れると結露してしまう。このフェイスは午後になると日陰になる。恵那市の最高気温が20度前後の日の午後、特に夕方になると全体のコンディションが良くなることがわかった。まだ粘れる。24日、25日で登りに行く予定だったが、24日は体が重く、湿度も高めだったので25日にかけることにした。
このルートはボルト5本と比較的短い。全体で36手、核心は9手のボルダームーブ。25日の夕方、最後のトライで初めて核心を突破した。けれど、その次のムーブも繊細で、繋げてくると落ちるかもしれないと思っていた箇所だった。これまでムーブ練習では落ちたことはなかったが、左足を正確に置くことができず、また右手で引きつける力が残っていなかった。核心が突破できた喜びと決めきれなかった悔しさを感じながら帰宅した。
翌日は月曜日だったが妻の仕事が早く終わり、16時には岩場に来られるという。日没まで2時間ちょっと。このチャンスを逃すと数日後から雨予報が続き、GWは山の予定が入っているのでしばらく期間が空いてしまう。体と岩のコンディションが悪くなるのは目に見えていた。
その日は素晴らしく美しい一日だった。澄んだ青空が広がり、新緑の緑が輝いていた。朝から気温が低く、空気は乾燥していて風が心地よかった。昼過ぎに家を出て、岩探しをかねて散策しながらウォーミングアップ。ルートの下で横になって休んでいると、岩と木々の間から見える空がとても高く感じられた。こんな時に、夕方に少しだけでもクライミングを楽しめるとは、なんて幸せなんだろう。10年かかろうと20年かかろうと登りたい。そう思えた。
しばらくすると妻が到着。アップをすませると17時のチャイムが遥か下の町から聞こえてきた。さっきまで吹いていた風は止み、なぜか湿度が高くなってきた。指先にかすかに湿気を感じる。けれど、残された時間もあまりない。
1便目は、あと一手で核心を越える、と言うところで左手が滑ってフォール。その瞬間、荒い結晶が右手薬指の腹を引き裂いた。血が流れ、今日のトライは終わったかと思った。昨日の疲れもあり、1便目で出し切ったようにクタクタになってしまった。幸い、指先の血は止まり、テーピングを巻くとそれほど支障はなさそうだった。
少し休んで18時過ぎ。すでに薄暗くなりかけてきた。これ以上待っても体も回復しないし湿度も低くなりそうになかった。液体チョークで指先を冷やして登り始めた。
疲れと湿度を感じ、一手目から感触は良くなかった。核心に入ったところで、今まで一度も切れたことのない左足のヒールフックが外れた。体が振られるのを両手で挟み込んで耐えた。この瞬間に「パチン!」とスイッチが切り替わったのがわかった。右手のピンチは滑っていたがなんとか耐えて左手をフィンガージャム。次のムーブに繫げるにはこの左手が重要だった。いつもは滑っていたが、この時は感触が悪くなかった。「よし!行けるかもしれない!」。右足を米粒ほどのフットホールドに正確に乗せ、右手をデッドポイントで飛ばすと、核心の終わりを告げるホールドを掴んだ。ここで落ちると岩に激突する。慎重にスメアリングしてクリップ。1回ずつ手をシェイク。次が昨日落ちたポイントだ。指先が悴んでくる。このチャンスを逃すわけにはいかない。慎重に指先をフットホールドにセットし、ソールを結晶に馴染ませる。右手に引きつけられる力が残っているか・・・。遠い左手のガストンに手を伸ばすと、かろうじて人差し指と中指の第一関節が半分くらいホールドを捉えた。まだ落ちていない。右足をあげ、右手をボトミング。気持ちの昂りからか足が正確さを欠いている。落ち着けと言い聞かせる。短いとは言え、ここまで繋げてくると手もヨレ始めていた。ここからは落ちるところではない。レストをして指先を温め、甘いカンテを辿ると終了点の横のガバを掴んだ。そして三角形に尖った岩塔の上にマントルをして立ち上がった。
この岩は深海岩と名付けていた。山なのになぜ深海なのかというと、谷に埋もれるようにひっそりと鎮座する岩が、あるいは尾根向こうの人気課題の喧騒から離れた静かな場所が、人知らぬ海の底のように感じられたからだった。そして、このルートの名前は、北欧の伝説で深海に棲むとされる巨大なイカ(タコだったりもする)の怪物から「Kraken(クラーケン)」とした。三角形の岩の形が巨大なイカを連想させた。グレードは5.13+くらいだと思うけれど、よくわからない。5.13ノーマルかもしれないし、そうでないかもしれない。ボルダーが強い若者ならすぐに登ってしまうだろう。特筆すべきグレードではないけれど、ラインと内容は秀逸だと自信を持って言える。尖った岩の上に立ち上がるというフィナーレも申し分ない。
この岩に魅せられ、ラインを思い描き、岩との衝突に怯え、悶々とした日々を過ごし、それでも諦めずに登り切ることができた。このルートは、自分の人生にとってとても大切な一本となった。たかが10mちょっとの岩である。他の人なら見向きもしないかもしれない。そんな小さな岩に、生活をかけ、苦しみ、もがき、喜び、そして満たされる・・・。フリークライミングとは、なんて素晴らしい行為なんだろう。どれだけ濃厚なものを感じられるかは、そこに注いだ情熱に比例する。
完登してから、偉大な先達・保科雅則さんの言葉を思い出した。
「目の前にある課題にひとり対峙し、常に『挑戦』する姿勢をもつ者が『クライマー』であって、それに向けて日々自らを前進させる努力を惜しまない。人はそれをストイックというかもしれないが、情熱をキープし、最後まで諦めず一手上をめざし「1日1ミリ」前に進み続ける精神が『クライマー魂』である。」
おこがましくて、自分のことを「クライマー」と呼べなかった。けれども今は、自分を「クライマー」と言ってもいいのかもしれないと思えるようになった。別段難しいルートでもないけれど、ひとりの名も無いローカルクライマーが、小さな岩に見出したラインに魅せられ、情熱を傾けたことを書き記すことは、それほど悪いことではないだろう。自分にとって「Kraken」は、この場所で暮らし、登り、この岩場に関わってきたことの証である。そう思えるルートをじっくり育て、登ることができたことが、今はただ素直に嬉しい。
後日、再びこのルートの取り付きに行った。そして岩の基部に「Kraken 5.13+」と書いた木片を置いた。数日前まで恨めしかった新緑が、今は鮮やかに輝いて見える。
​注文の多いビレイに文句を言わず付き合ってくれたNくん、そして何より、何日も深海岩に通い、愚痴ばかり聞かされ、最後は病み上がりの体でビレイをしてくれた妻に感謝したい。
さて、長々と書いたけれども、とても良いルートだと思うので、ぜひ多くの方に登っていただきたい。グレードも全くもって自信がないので、登った方はぜひコメントをいただけると嬉しいです。
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